NIKON F100 + AiAF Zoom Nikkor 28-105mm F3.5-4.5D (IF)
この角を曲がると海が見えなくなる。 振り返れば、挨拶した時も、さよならをした時も座ったままだったおじいさんが、 立ちあがっていた。 孫に海の魚が見たいと言われていたと語ってくれたおじいさん。
今朝の釣りをあきらめたのか、それとも大物が釣れたのか。 きっと大物だろう、そんなことを思いながらこの道の角を曲がった。
いろいろと語ってくれた。 魚のこと、海のこと、そばにある美味しい干物屋や戦争のこと、両国のちゃんこのこと、お孫さんのこと。 御年88歳、ここで釣りをして3日目という。 さすがに3日間、魚ばかり食べてると飽きると言っていたけれど、釣り糸はまだ波間を彷徨っていた。
戦争のことを語ってくれた顔には悲しさと、過ぎ去ったことを受け入れる強さがあって、 その表情はとても優しかった。
写真を撮らせて頂いた時もかわることなく、穏やかに海を見つめていた。
前日に宿を予約して、房総を旅してきた。 道中、誰もいない桟橋の奥でひとり釣りをしているご老人がいた。
この日の海は、まるで砂時計のように静かに時を刻んでいて、 気がつけば、この方とずいぶんと話をしていた。